ライムの葉とナミアゲハの幼虫と
所長 毛利 一平
マンションの11階にある部屋のベランダにライムの木があります。ずいぶん前、診療所の外階段の踊り場で、育てていたものです。誰がどうやって植えたのか、詳しいことは聞いていなかったのですが、ペットボトルの中で少しずつ大きくなっていく姿がけなげで、水のやりすぎに注意しながら見守っていました。
狭い空間の中でどのように葉を広げていくのか、興味津々、見守っていると、ついにちいさな飲み口から葉をのぞかせたのです。
これはすごい。強い植物だなとも思うけれど、小さな出口をしっかり見つけ出して、幹を伸ばして枝葉を茂らせてゆく。なんとなく人生に重ねたくなるような姿でした。
「僕が育てるから」と引き取って、「うん、もう十分狭いところで頑張ってきたよね、思う存分枝を伸ばして葉を広げな。」そう話しかけながら、ベランダの鉢に移してやりました。
特に手入れをするわけではないのですが、水やりだけは欠かさずやっていると、結構大きくなってきました。花を咲かせるわけではないし、大きなとげを持っているし、正直、ちょっと持て余していました。このまま大きくしたとして、いつ、どんな実がなるんだろ。ベランダでそこまで大きくしていいのかな、なんてぼんやり考えていました。
最初に異変に気が付いたのは7月10日ごろだったでしょうか。それまで一度も傷んだ葉を見たことがなかったのに、何かにかじられたような跡があります。ああ、何か虫でも付いたのかな、ボロボロになっていくのはやだな。でも殺虫剤とか使うつもりもないし、どうしよう。とはいえ所詮、あるがまま、水をやるだけのずぼらなベランダー(ベランダで植物を育てる人のことをこう呼びます)ですから、まあいいやと経過観察を決め込みました。
その後もかじられた葉が増えていきます。2日ほどたったところでようやくイモムシの存在に気が付きました。
さあどうする。ライムの葉を守るか、イモムシの成長を見届けるか。
こんな時の答えは簡単です。ライムはきっとまた葉を茂らせてくれるでしょうから、ここはイモムシの成長を見届けましょう。調べてみると、どうやらアゲハチョウの幼虫、このあたりでも時々見かけるナミアゲハのようです。
そうかそうか、こんなところにあるライムの木によく気が付いてくれたね。全部食べていいよ、立派なアゲハチョウになってね、と言いたいところですが、よく見ると3匹もいます。今度は3匹がちゃんと蛹(さなぎ)になるまで、葉っぱが足りるか心配になってきました。
そして今朝(7月22日)、ライムの葉は8割方なくなっています。イモムシたちは...いません(涙)。どこかで蛹(さなぎ)になってるかなと思って探してみましたが...いません。うん、きっと探し方が足りないだけ。涼しくなったらベランダの大掃除をしましょう。抜け殻が3個、見つかるはずです。
それにしても・・・。ペットボトルの中で育ったライムの木、こんな都会のど真ん中で出会った2匹のナミアゲハ、卵を抱えて11階まで昇ってきたナミアゲハのお母さん、そして生まれた3匹のイモムシたち、ライムの木は葉を与え、イモムシたちがそれを食む・・・。なんか、すごくないですか?
うんざりする暑さの中、都会の中の自然の営みに思いを巡らせ、少しばかり癒された時間でした。
暑さ厳しい折、みなさま、くれぐれもご自愛ください。