新年の願い
鍼灸師 富永 純枝
年の初めにいただくお屠蘇。普段はあまりお酒も飲まないのですが、この日は盃も小さいせいかお代わりの手が止まりません。朝の空きっ腹に生薬のほんのり香るとろりとした黄金色の液体が染みわたり、一杯目から心地良くなっておせち料理の箸も進みます。体にいいからと罪悪感なく杯を重ねるとあっという間にお銚子が空に。毎年みりん屋さんでもらうお屠蘇パックを一晩日本酒に浸けておき、朝には錫(すず)の酒器に移していただくのですが、なくなるとまた、日本酒を継ぎ足し継ぎ足ししてパックが出がらしになるまで飲み尽くすのが恒例になっています。
お屠蘇の習慣は中国から宮中に伝わり、邪気を追い払う効果を持つ薬物を処方した屠蘇散を儀式のあとにお神酒に浸けて飲み、疫病を除くために祈願したのが始まりとされています。屠蘇散の処方は書物によって違いますが、一般的には白朮(オケラの根)・蜀椒(サンショウの実)・防風(ボウフウの根)・桔梗(キキョウの根)・桂皮(ニッケイの樹皮)・陳皮(ミカンの皮)、紅花など、身体を温めたり、胃腸の働きを助けたり、風邪の予防に効果的といわれる生薬を含んでいます。漢方薬の匂いが苦手という方もいらっしゃるかもしれませんが、私は香りを嗅ぐだけでなんとなく元気が出てきます。
京都の八坂神社では大晦日から元旦にかけて「をけら詣り」という行事が行われます。除夜祭のあと、御神火に白朮(オケラ)の欠片と願いを託した「をけら木」が一緒に焚き上げられ、参拝者はその煙を吸うことで一年の無病息災を祈願します。またその火を縄に移して持ち帰り、火伏せのお守りとして台所にお祀りするそうです。白朮はキク科の植物の根を乾燥させたもので、燃やすと強い匂いを発することから邪気を払うとされてきました。古来から続く京都の風物詩だそうですが、医学や科学が発展しても人々の願いは今も昔も変わらないようです。
お屠蘇があまりに美味しいので一年中お屠蘇パックがあればいいのにとよく思ったものでしたが、今はネットでいつでも買える時代になりました。そうなると年がら年中、おとそ気分になってしまい有難みがないので、やっぱりお正月だけの楽しみに取っておこうと思います。その代わり毎朝の紅茶にシナモン(ニッケイ)や生姜、カルダモンなどを入れてチャイ風にしていただいています。
鍼灸院から漂うもぐさ(ヨモギ)の香りも邪気払いの一つ。今年もモクモクとお灸を据えてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。