コロナの中で

事務長 永井未咲

 この一年、ひまわり診療所のスタッフは、みんなで知恵を出し合い困難を乗り越えて来た。平野先生から毛利先生へ所長が交代して、看護師、事務も入れ替わってから5年が経った。新型コロナで、先の見えなくて不安な状況の中、みんなで団結して乗り切った一年だった。一緒に働く仲間、最強のチームだなと誇りに思う。残念だった事は、設立30周年式典が出来なかった事。今年は、コロナ禍の密を避ける工夫をして、10月9日土曜日に開催します。どうぞお楽しみに。

 2020年は、世の中の変化のスピードの早さと、ステイホームで自粛の状況下でも、工夫して前向きに生きる人々の姿を、テレビやSNSの情報から見聞きするたび、エネルギーに圧倒された。四季の変化を感じない一年だったが、新たな発見があった。

 マスク、消毒用エタノール、フェイスシールドが手に入らず、診療所で取引している業者から欠品の知らせが相次ぎ、近隣のドラックストアを回った事、スタッフで協力し合い情報を集めて、調達した事。日本中の多くの人が翻弄されたと思う。この先が、不安だった。

 4月以降は受診控えで外来の患者数が減る一方で、新型コロナ疑いの方が来院されるようになり、感染予防策を取りながら診療を続けた。診療所の入り口には院内に入る前の問診を取るための張り紙が増えた。8月にはクリーンブースが出来て、PCR検査を開始。みんなで話し合い、問題点を解決しながら進んできた。毎日色々なドラマがあった。

 我が家には、中3の長女と小5の次女がいる。この状況下で、長女は受験生、毎日マスクして勉強道具の重いリュックを背負って塾通いを頑張った。そんな長女はコロナで休校になった時にギターを始め、上手く息抜きをしていたと思う。今では弾き語りを披露してくれる。春からはめでたく高校生。次女は新体操。新体操の先生はこの間も、感染予防策を取りながら、試行錯誤をしてその時できるレッスンを続けて下さった。年末には密を避けてという事で、YouTubeで発表会をするという事を企画してくれた。各家庭で、オンラインで子供達の演技を見ることが出来た。画面に映る子供達の真剣なリボンの演技に感動して泣いた。

 秋頃、横浜で開催されたバンクシー展を観に行った。マスクをしてソーシャルディスタンスを取りながら観たバンクシーの作品は、普通に見るよりも一層強烈な印象を受けた。特に、バンクシーが監修した「ディズマランド」(※1)というテーマパークは衝撃的な作品だった。大量に消費する経済優先の社会の歪みを痛烈に批判した作品。この強烈な展示は、とてもこのままやり過ごしてはいけない何かを感じさせられた。

 『コロナの時代の僕ら』、イタリア人作家のパオロ・ジョルダーノ氏の本を読んだ。人間をビリヤードの玉にたとえて、新型コロナの流行が広がる様子を表現している。一人の感染者が二つの玉にぶつかり動きを止める。弾かれた二つの玉もそれぞれ二つの玉にぶつかり、これを繰り返して感染拡大が起きる。だが、人間はあちこちに移動するのでビリヤードの玉よりも広がりが早い。そのスピードの速さはアールノートという記号で表され、過去の例と比較される。一人の感染者が感染させる数が1以下にならない限り伝播は止まらない。この伝播を止めるのに「ワクチン」は有効な策とされている。ならば、このことに期待したいと思った。そもそもこの流行は、環境破壊が生んだ事であり、こうした事が起きるのは予測できる事だった。地球温暖化。環境や生態系破壊。秋に観たバンクシーの作品とリンクした。

 彼は言う。コロナは考える時間を与えてくれた。コロナが過ぎた後の世界を想像してみよう。私たちがコロナの流行する前の元どおりの生活に戻ったとしたら、またいつか別の感染症が流行するだろう。そうならない為に、今から何が必要で何が必要でないのか、これまでとは違う未来のあり方を考えよう、アフターコロナに、元に戻って欲しくないことは何かと言うことを考えよう、と呼びかけている。経済優先の社会が環境破壊や温暖化を引き起こしたという問題について。何からすれば良いか難しいが、人々が身につけたスピードと、蓄えたエネルギーを、未来の子供達の事とこれからの世界を想像する事に使おう。

※1 ディズマランドとは

 バンクシーが「悪夢のテーマパーク」として監修し、某「夢の国」を風刺した5週間限定のテーマパーク(イギリス:2015年8月22日から9月27日)。閉園後の解体資材はフランスの難民キャンプでの避難所建設に利用された。(編集者注)

泣いているハリネズミ

今年も花見はないのか・・・。