大工職人の労災支援、実は過去に出会っていた?

二次診療担当 加藤浩次

恐竜あなたはあのときの

 建築大工のDさんは6年ほど前から咳や痰が出るようになり近医を受診しましたが、症状の改善が全く見られませんでした。Dさんは独立自営時、じん肺二次診療を受診したことがあったため、2015年2月ひまわり診療所を受診しました。

 Dさんは、2009年の受診時と比較するとじん肺の進行もあり、肺機能検査、喀痰検査の結果から、じん肺合併続発性気管支炎と診断されました。治療開始とともに労災申請をDさんに提案しました。

 常用職人として籍を置いていたH建設の事業主に証明依頼し、中央労基署に労災申請、2016年3月に労災認定されました。しかし中央労基署は、最終粉塵事業場がH建設ではなく、Dさんが2002年から9年間ほど個人事業主であった時期だとして、特別加入をかけていた品川労基署へ移管したため、給付基礎日額は非常に低額になってしまいました。

 Dさんは、この日額では今後の生活もままならない事と、一人親方として従事していた時期を最終粉塵事業場とした事が納得できないとして、給付基礎日額の変更を求めて審査請求をすることにしました。

 Dさんは大工職人として様々な現場を渡り歩き、1996年から元請けがS不動産㈱の「新築そっくりさん」事業に従事してきました。リフォーム専門の事業のため、解体撤去作業、耐震補強工事、下地処理、造作等全て自ら行い、現場では多くの粉じんが発生しました。またPタイル剥がし等の石綿含有建材撤去作業を自らする現場も多くありました。その間のS不動産㈱とDさんの関係は、「下請けのN工務店にて常用職人となる→N工務店廃業後、Dさんが一人親方の下請け事業者となる(労災保険に加入)→S不動産㈱からの厳しい値下げ要求と資材高騰などにより自営を断念し、2011年からH建設の常用職人となる(労務単価は公共事業の平均単価に近い額)」、といった経過を辿ります。

 元請けのS不動産㈱は、石綿障害予防規則施行後アスベスト対策マニュアルを作成して2006年に各現場に周知徹底し、Dさんにも石綿作業主任者技能講習の資格を取得させたと申述しており、またH建設使用者報告書では、事業場としての粉塵ばくろ作業は「無」、石綿関連作業・石綿製品取り扱いは「無」と記載されていました。復命書によると、このことから最終暴露作業時期は2005年12月末、したがって特別加入期間が「石綿ばく露作業」期間と認められるとの判断でした。

 しかし、S不動産㈱は元請けとして正確な調査もせず不誠実回答をしていたのです。S不動産㈱は「H建設の誰が石綿建材処理したかは把握できていない」としていましたが、産廃業者に依頼した場合、伝票に作業従事者の名前を記載し、元請けで管理することになっていることから、保管されている伝票を確認すれば特定できるはずです。石綿関連疾患発生状況についても「当社職員では、石綿関連での発生はございません。」と回答していましたが、「労災認定事業場」にてS不動産㈱で中皮腫1件が認定されていたのです。

 こうしたことから2017年7月に原処分は取り消しとなり、最終粉塵事業場は元請の管轄署である新宿労基署と判断され、給付基礎日額はDさんが主張した額に変更されました。

 Dさんの職歴聴取をして初めて分った事なのですが、私の前職は台東区上野でワンマン経営者のもと、二輪関連商品の企画開発と販売をしていた時期がありました。バブル景気に乗り1980年後半から急成長を遂げ、店舗拡張を強引に行っていた時期でした。専属工事業者を抱えており、その中にDさんが職人として在籍していたのでした。お話を伺いながら、当時、無理難題な工事を強いられていたDさん、ワンマン社長による無理な営業ノルマを課せられていた私、お互いの立場での大変な苦労を懐かしく思い、何としてもこの方を救いたいと、支援により力が入ったのでした。