戦前は労働時間の規制がなく、多くの労働者の命と健康が奪われました。その反省に立ち、1947年に労働基準法が制定され、1日8時間労働の規制が設けられました。そして今、1日8時間以内、週40時間以内という労働時間の規制により、労働者が安全・健康に働く権利が守られています。ところが、この労働時間の規制を取り払おうとする労働基準法の「改正」案が国会に上程されています。
どういう「改正」案かというと、「高度プロフェッショナル制度」というネーミングです。この「改正」案は、「高度の専門的知識などを要する」職務で、一定の年収(当面1075万円以上)を有する労働者を対象に残業と休日労働の規制を取り払い、会社が残業の割り増し賃金も払わなくてすむようにするものです。そうはいっても一応労働時間の制限はついています。一つは、24時間について継続した一定の休息時間と深夜業の制限、二つ目は、1ヶ月または3ヶ月について一定の時間を超えない労働時間、三つ目は、1年間に104日以上の休日を与えるというものです。この三つのすべてではなく、いずれか一つの三択です。例えば一つ目を選択すると、1日8時間の休憩時間を与えれば年中無休で働かせることが出来ますし、三つ目を選択すると、年間104日(大体週休2日)休日を与えれば、1日24時間働かせることも可能になります。当然割増賃金を払う必要はなく、長時間労働で「過労死」しても労災にはなりません。まさにブラック企業が大喜びしそうな内容です。
高収入の労働者であれば労働時間の規制をなくしていいわけはないし、過労死してもいいということにはなりません。日本経団連は、「少なくとも10%の労働者に適用する」事を求めていて、ひとたび法案が通れば年収用件が引き下げられるのは火を見るより明らかです。厚生労働大臣も、「小さく産んで大きく育てる」などと言って経団連の期待に応えようとしています。安倍政権は、「岩盤規制に穴を空け」、「企業が世界で一番活動しやすい国」を作るのが目的です。そのためには労働者の犠牲はものともしないというのでしょうか。
長時間労働による過労死、過労自殺が大きな社会問題になっています。2014年度の労災補償状況をみると、脳卒中や心筋梗塞などの労災認定は277件、自殺は99件になっています。安全・健康に働く労働時間として1日8時間、週40時間の規制をなくすことは、労働者の命と健康を奪い、過労死や過労自殺をさらに増やすことになるのは明らかです。このような「過労死促進法」は廃案にすべきだと思います。