4月に毛利一平先生が常勤で入り診療所も少し若返りました。日常の診療は、昨年も引き続き地域の患者さんに加えて、アスベスト関連疾患(特に建設労働者)やじん肺などの職業病の患者さんが多く受診されました。また、隅田川の路上生活者、以前に比べるとだいぶ減りましたが外国人労働者、また軽度外傷性脳損傷の患者さんも来られました。今年も変わらず診療活動を続けて行きたいと思います。
昨年から来られた毛利先生は、実は予防医学の専門家で、職業がんの疫学(病気の原因を統計学を使ってつきとめる)について研究されてこられました。予防医学は非常に重要で、病気の治療よりも病気にならないよう予防することがより大切なのは言うまでもありません。肺がんの治療は大事ですが、禁煙をして肺がんにならないほうがいいでしょう。予防には様々な要素があります。たばこやアルコールなど私生活に関することや生活環境もあります。1日の3分の1、約8時間働いている職場の労働条件・環境も大きな要素です。毎日働いている職場の労働条件・環境が悪ければ当然健康にいいわけがありません。長時間の残業が続けば過労になり免疫力が落ちて風邪をひきやすくなり、また風邪をひくと治りにくかったり、こじらせて肺炎になることもあります。長時間のパソコンは肩や首の痛みの原因になります。立ちっぱなしの仕事は腰痛になるし、アスベストなどの発がん物質を吸うとがんになることもあります。
最近診療していて気になるのが長時間労働です。風邪で来られた患者さんに薬を処方しながら、「風邪には休養が一番です」とお話しすると、「とんでもない!休めません。毎日夜10時・11時まで残業ですよ」などという答えが返ってきます。「ここ数か月位1日も休んでいません」などと言われる患者さんもたまにおられます。有給休暇も取れない、中には残業しても手当が出ないなどという労働基準法違反をしている会社もあります。このような労働条件・環境を変えるのも病気の予防です。昨年、「過労死等防止対策基本法」が成立しました。長時間労働などによる過労によって脳卒中や心筋梗塞などで亡くなる「過労死」の予防を国としても取り組むという法律です。今後の対策が期待されるところですが、一方で安倍首相は、「年収1千万円以上の労働者について、残業代を払わなくてもいい」という「残業代ゼロ法案」の提出を目論んでいます。「過労死等防止対策基本法」と相反する法案であり病気の予防から考えても極めて問題です。こんな法律は止めさせましょう。
今年も働く人たちの健康を考えながら診療活動を進めて行きたいと思います。よろしくお願いします。