「患者申出療養」というなじみのない用語が最近ちょっと話題になっています。あまり聞いたことがない方も多いと思います。「患者申出療養」というのは、混合診療と言って、健康保険による療養と保険外の療養の併用のことを言います。日本は、国民皆保険で、日本国民は全員組合健康保険や国民健康保険に加入していることになっていて、保険料を払っていれば、医療機関の窓口で療養費を全額払わなくても1割~3割の自己負担で済みます。薬や検査の料金(診療報酬)は国で決められています。混合診療というのは、保険診療を行う場合に、健康保険の対象外になっている薬を処方したり検査をすることは原則禁止になっていて、併用して行う場合は、すべて自由診療となって全額自己負担になるというのが現在の法律です。この法律を変えて保険診療と保険外診療の併用(混合診療)を認めようというのが「患者申出医療」制度です。今、安倍内閣が導入しようとしているのです。
2006年に、この混合診療の解禁を求める裁判がありました。腎臓病患者が、保険診療と保険が適用されない治療とを併用したところ、治療費全額を自己負担させられたことに対して違法であると提訴したのです。東京地方裁判所は、保険の適用になっている治療(保険診療)については保険からの給付を受ける権利があると原告勝訴の判決でしたが、国が上告し最終的に最高裁が、混合診療を禁止する措置は適法であるという判決を出して決着がつきました。
がんの患者でも、厳しい状況になると日本で認可されていない抗がん剤を最後の頼みの綱として使ってみたいという方がいるかもしれません。しかし、混合診療が禁止されていると全額自己負担になって経済的に厳しくその抗がん剤を使えないのは困るのではという意見があります。患者の希望とはいえ、国の審査を通っていない安全性と効果が確認されていない医薬品を使用することは問題であり、海外で認可されている医薬品であれば国内での審査を迅速にすべきでしょう。また、混合診療が認められると、保険適用外の医薬品が増えて金持ちしか高額な医療を受けられなくなる恐れがあります。
難病の患者団体である日本難病・疾病団体協議会は、「保険外併用療養費の安易な拡大は難病に苦しむ多くの患者が公平に最新の医療を受ける権利を奪うものとなりかねない」として「混合診療のなし崩し的な解禁に反対する~必要な医療は保険適用が原則~」との声明を発表しています。「患者申出療養」という名称で、いかにも患者からの申出を前提にしているかのように見せかけていますが、実は患者は希望していないのです。
日本は国民皆保険で、必要な医療は保険診療で公平に行うのが原則です。