最近、高血圧やコレステロールの基準値(正常値)が大幅にゆるくなったという報道があり週刊誌などで大騒ぎになりました。診療所の患者さんでも、「最近基準が甘くなったそうですね」と嬉しそうに言われる方が何人かおられました。週刊誌で面白おかしく取り上げ、中には「これまでは基準を厳しくして医者に薬を使わせるという製薬会社の陰謀で、結託した研究者もいる」などという記事もありました。最近、ノバルティス社という製薬会社の社員が降圧剤の臨床研究に介入してデータを改ざんしていたという事件があり、週刊誌の記事もあながちでっち上げとは言えないかもしれません。
報道されたのは、日本人間ドック学会と健康保険組合連合会のレポートで、「新たな健診の基本検査の基準範囲 日本人間ドック学会と健保連による150万人のメガスタディー」というレポートです。人間ドック受診者150万人から統計的な処理をして超健康人と呼ばれる約1万~1万5千人の個々の検査値の上限と下限を出したものです。この超健康人を選び出す過程がいまひとつ分からないところもあるのですが、とにかく健康人の各検査のデータということです。
血圧では、最高血圧の上限が147mmHg、最低血圧の上限は94mmHg。LDL-コレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)の上限が女性で183mg/dlとなっています。これまでの健診の基準値は、厳しい基準を採っている特定健康診査(いわゆるメタボ健診)では、血圧は最高血圧が129以下、最低血圧が84以下。LDLコレステロールは男女とも119以下です。いずれの検査も大幅に差があります。特定健診で異常とされても人間ドック学会の基準値であれば正常になります。これまでの血圧やコレステロールの基準値は、基準値を超えて高いのを放置していると脳卒中や心筋梗塞になる可能性が高くなるという研究データから出したものです。人間ドック学会のデータは、現在健康である人たちのデータで、その人たちが将来どうなるかは検討していません。したがって双方のデータを一様に評価はできません。ただし特定健診の基準値は厳しいという批判はこれまであります。
歴史的にはこの基準値は結構変わってきました。現場ではどう考えていいか戸惑うことも多々あります。ただ厳しい基準で、少しでも高いとすぐ降圧剤やコレステロールを下げる薬を処方することだけはしないようにしています。ひまわり診療所はあまり薬を出さないという評判もありますが、薬の副作用も心配です。まず食事や運動など生活面での対応が優先です。