ひらの亀戸ひまわり診療所

原口 悠

 野宿のおっちゃんたちとひまわり診療所に通うようになって、1年以上経つ。色々なことがあったなぁとしみじみ思う。今回はこの場を借りて、ぼくとおっちゃんたちとの楽しくも悔しい日々を紹介したい。

 と、その前に、路上で生活している人たちとの出会いを少しだけ。出会いは大学時代。駅で生活しているひとたちと話すようになった。おっちゃんが話しかけやすくてぼくが話しかけたのか、ぼくが話しかけやすくておっちゃんが話しかけたのか、定かじゃない。いつからか「これ兄ちゃんの酒。とりあえず座って、座って」とワンカップを準備していてくれるようになった。いつもみんなで車座になって飲んで、話をした。「きれいなスーツ着たサラリーマンがごみ箱から雑誌やら新聞、拾っていくんだよ。どんな世の中なんだろうな」なんてことを教えてくれたり、あるときは女子高生がお弁当を差し入れしてくれて、みんなで「ありがたいなぁ。世の中捨てたもんじゃないな」とか言いながら、一緒に食べた。夜空を肴に飲むワンカップ、おいしかったなぁ。

 これが出会い。今は、隅田川医療相談会で活動している。2年ほど前、親しいひとに紹介されて参加しはじめた。浅草の公園にテントを張って、医師が診察したり、鍼灸師が施術したり、一緒にご飯を作って食べたりしている。そこですぐにでも医療機関を受診したほうが良いひとたちと一緒にひまわり診療所に来るようになったのが、1年と少し前。高山さんや平野さんやひまわり診療所のみんなに助けてもらいながら、続けている。

 あるとき、こんなことがあった。肝硬変で、ひまわり診療所から大きな病院に入院することになったひと。昔は「その筋のひと」で、迫力十分。福祉事務所の職員はいつになく丁寧な言葉遣い。でも、実はとっても純粋で人懐っこい。入院中に言った言葉が忘れられない。「ほんと世話になったなぁ。今度一緒に杯を交わしたいもんだね」って、肝硬変のひとに言われたら何て答えたらいいものか(笑)。でも、人間くさいその言葉に癒されて、幸せな気持ちになった。今でも付き合いは続いている。

 他のひととは、こんなこともあった。動けないほどからだが悪い状態で出会い、救急車で病院へ。当然、即入院。ひどい扱いをする病院で耐えながら過ごしたお正月。三が日にお見舞いにいけず、正月明けに病室を訪ねたときの一言。「お正月に来てほしかった。コンビニのおでんが食べたかったぁ」。はっきり覚えている会話は、それが最後。病院での治療が遅れ、あっという間に帰らぬひととなった。若いころは全国を渡り歩いて現場仕事に精を出し、同世代のひとたちと同じように日本を支えてきた。ぼくらにとって、決して忘れられないひと。

 福祉事務所で尊厳を踏みにじるようなことを言われ追い返され、生活保護をとったら劣悪な施設に入れられる。医療機関では、十分な治療が受けられず、モノのように扱われることが少なくない。腹の底から悔しい。そんな状況を強いられる中、力強く、人間くさく生き続けている多くのひとたちが、身近にいる。ぼくは、これからもおっちゃんたちと楽しくも悔しい日々を過ごしていきたい。仲間になってくれるひとがいれば、気軽に原口までお声掛けください。

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