ひらの亀戸ひまわり診療所

ひまわり診療所 所長 平野敏夫

 先日大学の柔道部の同窓会がありました。飲みながら近況を語り合った時に、1年前からアメリカの会社の社長をしているA君がこんな話をしました。最近大病をして大変だったと言うのですが、何の病気かと聞いたところ、朝出勤しようと車に乗ったところで胸痛発作に襲われ、救急病院に運ばれ診断は狭心症だったようです。すぐに専門病院に転送され動脈にカテーテルを入れ、心臓の冠動脈にステントを入れて動脈硬化で狭くなった部分を広げる処置がなされました。処置は上手く行って約1週間で退院したとのこと。そこで彼が出した質問は「全部で医療費はいくらかかったか?」というのです。アメリカには医療保険制度が無いのは知っていたので、500万円くらいと答えたのですが、正解はなんと約2000万円(18万ドル)と言うのです。もちろん全部自分で払ったわけではなく、会社が掛けている民間保険から殆ど支払われたのですが、その保険料も年間300万円と言うことでした。アメリカの医療費は高いということは聞いていましたが、これほどまでとはとあらためて驚きました。ある程度お金があって民間保険に入っていないとこのような処置は受けられません。このステントの処置は日本でも行われておりそれほど特別の処置ではありませんし、もちろん健康保険の適応になっていて、診療点数もこれほど高くないし1割から3割の自己負担ですみます。改めて日本の健康保険制度が優れていることを認識しました。

 ところがこの健康保険制度が今危なくなっています。

 というのは「混合診療」の解禁が前の小泉内閣で提案されているのです。「混合診療」というのは、公的な医療保険でまかなう医療費を限定してそれ以上は自費にするというものです。例えば癌の場合、従来からある抗癌剤は保険で3割負担になるが、新しく開発された効き目が優れている抗癌剤は保険が効かず自費になるのです。お金がないとその抗癌剤は処方してもらえないのです。お金があってもその抗癌剤は高価なのでがん保険などの民間の医療保険に入っていないと支払いが難しくなります。今後医療が高度になり高齢化も進む中で、公的な医療保険への国庫負担と保険料への企業負担を減らそうというのが狙いです。アメリカなみに健康保険制度がなくなるとは思いませんが、医療費の自己負担が増えて、民間保険がのさばってくるのは間違いないでしょう。「いつでも、どこでも、誰でもかかれる医療」ではなくなります。このような「混合診療」の解禁には反対です。日本の優れた国民皆保険制度を守らなくてはいけないし、今後予定されている老人保険などの自己負担率の引き上げにも反対です。

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