ひらの亀戸ひまわり診療所

篠原憲彰

 どうも、体の調子が良くない。毎年、梅雨期、冬の乾燥期はよくないのだが、咽喉がおかしい。もともと扁桃腺が弱く、すぐ腫れてしまう。

 昨年2月14日、出勤途中に事故にあった。自転車の後輪に車が当たり、空中に投げ出され、地面に叩きつけられた。大した事故ではなかったのだが、事故以降、咽喉がおかしい。もちろん因果関係はないのだが、詰まったり、ひっかかる感じがある。粘着性の痰、いがいが、痛みもある。酒を飲むと悪化する(もちろん減酒はしている)。鍼治療をすると効果はあるのだが、継続治療が出来ない。3年前には父が喉頭癌で亡くなった。気にはなるのだが、ただただ日が過ぎてしまう。

 他にもいろいろ。昨年は中一の息子にランニングで負けてしまった。一昨年は勝負にならなかったのだが。100メートル走も15秒前後だったものが、16秒まで落ちた。スピードを上げると、身体がバラバラに分解しそうになる。眼も悪くなった。新聞、文庫本は大丈夫だが、辞書や何かの説明文などはもうだめだ。特に暗いところではお手上げだ。老化だと言えば簡単なのだが、自分の身体がだんだん"ゆっくり"になっていくのに、世の動きは益々速くなっている。身体は、この動きに拒否反応を起こしているのだろうか。

 最近ことあるごとに、故郷を思い出す。夢にも見る。私の故郷は、北海道サロマ湖の辺り。淡佐呂間というところだ。湖沼、山川、自然は何でもある。人口は2000位。冬はオホーツクからの風雪で厳しい。ここで私は山菜を採ったり、魚を釣ったり、ウサギを捕ったり、一日中遊びまわっていた。夢にまで登場するから、気になっているのだろうか。一つの記憶が頭から離れない。それは熊との出会い。当時、私の家の前に線路(もう廃線になった勇網線)があり、その向こう側に森林があった。森林の中に20m×30m位の畑があり、森林の外側からは畑の存在が全く分からなかった。森林に四方を囲まれた空間。秘密のにおいを感じたのだろうか。誰と何をして遊んだのかは覚えていない。覚えているのは、私が一人で、周りには既に刈り取られた麻の束が積み上げられていたことだけである。どこかで麻のことを聞いたのだろうか。一人で何度もその場所を訪れていた。秘密に浸っていたときだろう。ふと、気配を感じて振り向くと、熊が私を視ていた。距離は5m位。金縛り状態だ。思わず眼を瞑る。数分だろうか、気配が消えたような気がして恐る恐る眼を開ける。熊はいない。たったこれだけの話である。若干の脚色(私も分からない)は有るかもしれないが、本当の話である。当時、北海道では、毎年多くの人が熊に襲われて死傷しており、熊を仕留めると懸賞金が出ていた。

 こんなことが思い出されるのなら、帰郷した方が良いのかなと思う。既に40年、帰ってはいない。

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