胸膜肥厚斑
胸膜肥厚斑とは、石綿(アスベスト)によって、肺の外側の胸壁に起きる限局性の「斑(まだら)」状の良性の病変です。典型例は、白い陶器状の固い変化で、周囲との盛り上がりがなだらかではなく、胸壁に薄い「クッション状」の形状で付着している様に見えます。
良く形成される部位は、背部や傍脊柱(背骨の近く)部も多いのですが、側胸部(胸の横側)や、前胸部(胸の前側)にも形成される事がある点が特徴です。胸膜の一層の薄い上皮の下に、結合組織が増成する変化です。この変化は、石綿曝露者(吸入した人)に特徴的な変化であるため、過去に石綿を吸入した証拠として重要とされています。胸部レントゲン写真では、側面では3-5ミリ以上で判明できますが、背部や傍脊柱部や前胸部のものは、まず判明しません。胸部CT写真では、胸部レントゲン写真より薄い病変が部位をとわず判明しますが、これもすべてではありません。
手術や解剖時にはCTより更に薄い病変でも判明しますが、生命に関する重要な変化ではないため、石綿病変に詳しくない外科医や病理医の場合に、実際には胸膜肥厚斑が存在していても、記録に記載がない例をしばしば経験する所です。典型的な、胸膜肥厚斑の胸部CT像を、写真でお示しします。無症状で、本人が気づかないままに数年単位で少しづつ大きくなる事が多いものです。
結核や細菌やウイルスやその他の物質による胸膜炎(肋膜炎・ろくまく)の後遺症として残る、単なる「胸膜肥厚」とは全く異なります。単なる「胸膜肥厚」は基本的に連続しており、斑(まだら)状になる事は極めて稀です。また典型例では、周囲との盛り上がりがなだらかです。また背部に生じる事がほとんどで、側胸部は稀、前胸部におきる事は極めて稀である点も相違点です。
なお悪性胸膜中皮腫や石綿(アスベスト)による肺がんにより、胸水や胸膜浸潤が起きている部位では、腫瘍の浸潤自体が胸膜肥厚斑に似た像をつくりだしている時があります。腫瘍による胸膜浸潤のない側(部位)でないと、胸膜肥厚斑の判断がしにくい事も多いのです。