ひらの亀戸ひまわり診療所
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2016年新年号 第93号

雑感

鍼灸師 篠原憲彰

 家から少し離れた空き地に柿の木が一本見える。毎日たくさんの鮮やかな実をつける。やがて、実は鳥に食べられ、葉は一枚残らず落ちてしまう。冬への移り変わりを感じてきた。今年は、10月に母が他界したせいか、侘しく見える。

 母とは、私が東京に受験に来てからは一緒に暮らすことは無かった。亡くなったとき悲しみは感じなかったが、力が抜けてしまった。ここ数年程は私を認識することすら出来なくなっていた。でも、生きているだけで支えられてきた。あれもこれも何も出来なかったことに後悔ばかりが先に立つ。

 11月に、安全センターで、ビキニ水爆実験後のマーシャル諸島島民の被曝人体実験(プロジェクト4.1)を追いかけたドキュメント映画「ニュークリア・サベージ」を観る。アメリカは、1946年以降67回もの核実験を行ってきた。1954年の水爆実験では、島民を避難させず故意に被曝させた。「風向きが変わった」との理由で、島民の被曝は、偶然起きた事故であるとしている。

 しかし、後に公文書の公開で明らかになったが、死の灰が人体にどの様に影響を与えるかを調査する秘密プロジェクトだった。鼠や山羊では不十分だった。科学者等が「野蛮人」と呼ぶ人間が必要だったのである。被曝した島民一人一人に番号をつけ、彼等が死ぬまで管理し、死の灰の影響を調べる。

 また実験後すぐには島民を避難させなかった。島民は小さな島「きり島」に強制移住させられた。ここには、水も無く、ゴミ捨て場も無く、海に囲まれた収容所の様だ。人口数万の小さな国の島民は、人間の尊厳と生存を賭け、大国と闘っている。この水爆実験では、マグロ延縄漁船第五福竜丸も死の灰を浴び船員が亡くなっている。(現在江東区夢の島に保存されている)

 私達は、9.11を経験した。原子力が私たちの生活をどれだけ破壊したか知ったはずだ。しかし、事故原因、責任も明かでは無く、原発再稼働、原発輸出への動きが進んでいく。映画では改めて原子力は、人間とは共存できない事を教えてくれた。

 12月の江東区報。羽田空港の発着便を増やすため、荒川河口(高度610M)から川を遡って行く飛行経路案が出されました。私の家から荒川まで数百メートル。今でも東京湾上空を飛ぶ飛行機の音が遠くに聞こえる。区は、双方向の対話を通じ環境影響に配慮した方策を模索するというが、いったいどうなるやら。反対運動をしないようになれば良いが。

 昨年末、久々に東京都交響楽団も聞けたし、70歳近くなって町議会議員になったAさんの元気にふれることが出来た。新しい気持ちで新年を迎えたい。

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