ひらの亀戸ひまわり診療所
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2015年新年号 第89号

隅田川医療相談会のこと

毛利一平

 毎月第三日曜日の午後、僕はJR浅草橋駅で電車を降りると、たいていは近くの牛丼屋さんで昼食を済ませ、隅田川テラスを上流に向かっててくてく歩きます。今年は毎回とても良い天気で、散歩の恋人たちや家族連れ、老若男女の集団とすれ違いながら、対岸の景色を眺めながら、きらきら光る川面に目を細めながら、40分ほどの距離をのんびりと歩きます。隅田川医療相談会に参加するためです。

 言問橋を過ぎた隅田川公園の端っこでそれがあります。山谷地域で路上生活をされている人たちのために、歯科医師や鍼灸師も含むボランティアの医療従事者、福祉を学ぶ学生など、30人ぐらいが集まります。そして、いつもお祭りの屋台よろしく診察、薬の配布、針治療、生活相談、そして散髪コーナーが準備されるのです。

 一番人気は薬の配布コーナー。毎回80人ぐらいが集まります。簡単な問診で症状を確認し、かぜ薬や胃薬など、主に薬局で買えるような薬をとりあえずの分だけお渡しします。私は診察の手伝いをすることが多いのですが、毎回2~3人の方から話を聞き、治療が必要と判断されるときは紹介状を書きます。

 今年の5月から6回ほど参加したでしょうか。集まった路上生活者の方とはいつも一人当り10分ほど話を聞けるだけにすぎません。中には翌日、診療所でもう一度診察をしながら話を聞くことができる場合もあります。まだまだ誰かに何かを伝えられるほどには、相談会のこと、そこに集まる人たちのことをわかったとは言えません。

 でもいつも「なぜ?」と思います。みんながんばってきたのに、そしてまたがんばろうとしているのに、行政や医療機関でたくさんいやな思いをして、役所には行きたくないから、病院には行きたくないから、話なんて聞いてほしくないから、今日と明日の分だけ薬がもらえたらいいから、そんなふうにいう人たちも少なくないのです。

 どうすればよいのか、自分はまだ未熟で、話を聞きながら右往左往するだけで時間が過ぎます。でも、そんな時間であっても、相談会に集まった人たちのために少しでも役に立てているのなら、これからも参加し続けようと思っています。

 相談会の帰り際、少しだけスカイツリーをにらみつけます。そして今夜、路上で眠らなければならない人たちのことを考えます。また来月も会えるようにと願って。

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