ひらの亀戸ひまわり診療所
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2012年10月 第80号

医療事故のこと

高山俊雄

 1999年1月の横浜市立大学の心臓と肺の取り違え手術事故以来、医療事故は今もって後を絶ちません。実は、横浜市立大学の事故以来としたのは、理由があるのです。
 国の官僚組織は、縄張りが決まっており、自分の縄張りの事しか、担当の官僚は考えていないのです。その官僚の組織に、この事件が起こるまでは、医療事故問題を考える組織は存在していませんでした。
 この年は、2月に都立広尾病院の看護師が注射を間違えて、患者を死亡させるという事故も起こりました。このように重大事故が続いたため、マスコミはそれまではほとんどタブーであった医療事故報道を堰がきったように一斉に始めたのでした。
 この動きにたまらなくなった国は2001年4月「医療安全推進室」を発足させ、日本で初めて医療事故問題を考える部署を作ったのでした。その意味で1999年は、医療事故問題では、エポックな年と言えるでしょう。
 さて、医師法21条は、不審な死亡については警察への届け出をするように定めています。この届け出義務の中に、当然、医療事故と思われる場合も、届け出するべきだと思うのですが、これが簡単ではありません。この問題について、厚生労働省は届け出のガイドラインを作ってはいませんが、「法医学会」は届け出のガイドラインを作り、それに従って届け出るべきとしています。一方医療機関は、余程明らかな場合を除いて、医療事故だとはほとんどの場合認めようとしていません。医療機関だけではなく、日本医師会や医学会も、素人の警察権力に自らの処遇をゆだねたいとは思っていないようです。その為に、第三者の医療に精通している人々の組織を作って、そこへ届ける制度を作るべきと主張しています。
 自公政権下においてこの第三者機関への届け出制度は、法律の原案もでき、かなり実現されそうになりましたが、政権交代に伴い、白紙となりました。
 もう一つ大事なことは、「医療安全推進室」ができ、そこが政策として打ち出したものに、「医療事故届け出制度」と「医療支援センター」があります。前者は、文字通り、事故の届け出を受け、それらを半年ごとに事故分析をし、公表しています。問題は、この事故報告は、国立病院や大学病院などで、特定機能病院の指定を受けている病院と自由に参加を希望する病院だけで作られており、日赤や済生会、公立病院などは全く報告義務が課されていないことです。第二に特定機能病院には報告義務が課されていますが、報告がされていない病院が一定数あり、結局事故の全体数としては掌握できない実態にあるという事です。
medical photo 後者は、各都道府県に一か所医療に関する諸々の問題について、相談ができる窓口です。医療法施行規則を変更してまで作った窓口ですが、殆どが事務職員で、相談しても埒があきません。
 政権がどうあれ、事故を把握する有効な方法と相談機能の充実が求められていると言えます。

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