ひらの亀戸ひまわり診療所

ひまわり診療所 所長 平野敏夫

 4月末に新型インフルエンザ発生の報道があった時には少し驚き、海外渡航者で高熱がある患者が来院した際の対応などスタッフ会議で話し合いましたが、5月になってそれほど強毒性ではなく、季節型インフルエンザと大差ないことが判明して特別な対応はしないことに決めました。その後6月、7月、8月と新型インフルエンザの患者は受診しませんでしたが、第二波の流行が始まり9月に入ってぱらぱらと受診するようになりました。小児科を標榜しているものの内科がメインの診療所なので、新型インフルエンザの患者さんはそんなに多くはありません。これまでに約30人程度です。診療所の体制としては、基本的に季節型インフルエンザと同じようにやっています。従来から発熱と咳が出ている患者には待合室でマスクの着用をお願いし受付でマスクを渡していました。今回はそれに加えて、38.5度以上の発熱があれば優先して先に診察をしています。そして、実はこれもあまりやりたくないのですが、インフルエンザの検査結果が出るまでの10分間は別室で待機してもらっています。

 インフルエンザと診断が決まるとタミフルを処方するかどうか悩むことになります。ほとんどが20才以下の青少年と幼児です。とりあえずインフルエンザの薬としてタミフルがありますというお話をすると同時に、副作用として「錯乱状態になって窓から飛び降りる」ことがあることをお話しすると大体の親御さんはご存知です。次に、別に飲まなくても治るが、飲むと1日くらい早く治るかちょっと軽く済みますよとお話します。すると大体の親御さんは、今日と明日は親がついていることができるので処方して下さいと言われます。中に数人飲まない方がおられました。この間新型インフルエンザで一人亡くなるたびに報道され、時には行政の記者会見の場面が放映されたりすれば、親としてはタミフルを飲ませないで様子を見ますというわけには行かないでしょう。当方もこれまでの季節型インフルエンザでは、タミフルの処方を話す際に、飲まなくても治ることを強調してなるべく飲まないようにお話しするのですが、これだけ恐怖感が拡がりしかも子供となると「万が一処方しないで重篤になったら・・」と考えてしまいます。これまで幸い重症化した患者さんはいなかったと思います。患者のほとんどは小中高生です。これまでの最高年齢は22才でした。これだけ子供に感染していれば親や教員にもっと患者が出るはずで、中高年にはある程度免疫があるのではないでしょうか。産業医をしているある都立高校では、生徒831人中約100人が罹ったにもかかわらず教員の発病は一人もありません。

 しかし、亡くなったという報道の影響は大きく、先日もある職場の安全衛生委員会でインフルエンザの対策が議題になった際、「新型インフルエンザは死ぬから怖いよね」と深刻な顔をされて話す方がいました。毎年季節型のインフルエンザでも5000人から1万人くらいは死んでいると話すと驚いておられました。また、過剰反応でインフルエンザの検査を希望する患者さんも数人いました。鼻声で働いていたら熱がないにもかかわらず、上司から「病院に行ってインフルエンザのチェックをしてもらえ」と言われたというのです。インフルエンザという診断が出たらしばらく会社を休むように指示されたとのことでした。

 ワクチンについてですが、以前から、季節型インフルエンザのワクチンについては1987年に前橋医師会が大規模な調査をしてまとめたいわゆる「前橋レポート」というのがあります。前橋の学校でワクチンを接種した学童が接種直後にけいれんを起こして亡くなったのを契機に行った調査です。この調査によると、ワクチンを接種した地域と接種していない地域でインフルエンザの罹患率が同じでワクチンの効果は認められないということでした。この調査結果が出て、当時の厚生省はそれまでやっていた学校での集団接種を中止したのです。新型インフルエンザのワクチンも季節型と基本的に同じ製法であり同様に効果が疑わしいということになります。従って、ひまわり診療所では「効果が疑わしいし副作用が出ることがあるのでお勧めしません」とお話しています。当然診療所では接種を行っていません(そもそも医師会に入ってないので出来ないのですが…)。

 新型インフルエンザについて、この間の報道は実態に比して過剰に恐怖をあおり、ワクチンについても予防はワクチンしかないかのような誤った情報を流していると感じています。

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