ひらの亀戸ひまわり診療所

ひまわり診療所 所長 平野敏夫

 暮れから正月にかけて日比谷公園の「年越し派遣村」がメディアで大きく取上げられました。景気のいい時にはがんがん働かせ、景気が悪くなると簡単に切り捨てる。まさに労働者を人間として見ないで物扱いです。会社の寮に住んでいた派遣労働者や期間工は寮を追い出され路上生活者にならざるを得ません。派遣労働者を組織する労働組合が中心になって、日比谷公園にテントを張り、炊き出しや医療相談を行いました。多くのボランティアが駆けつけました。炊き出しには約500人の人たちが集まり、厚生労働省も講堂を提供せざるを得ない事態に発展しました。大企業の横暴、派遣労働者や期間工などの非正規労働者の置かれている厳しい状況をアピールすることが出来ました。

 「派遣切り」が話題になっている中で日比谷公園の「年越し派遣村」が大きく取上げられましたが、新宿や池袋、山谷ではもう何年も前から毎年越冬の取り組みとして炊き出しや医療相談が取り組まれています。暮れ正月は日雇い仕事もなくなる、行政の窓口も閉まる、寒風吹きすさぶ路上に放り出される人たちが野垂れ死にしないように山谷の公園や新宿中央公園、戸山公園などにテントを張って炊き出しや医療相談を行っています。山谷ではもう30年以上になりますが、長年の取り組みの中で路上生活者自らがボランティアの助けを借りながら炊き出しやテントの設営などをやっています。新宿中央公園も「派遣切り」の影響か炊き出しに集まる人も昨年より大幅に増え500人を超えました。

 私はここ数年高田馬場の戸山公園の医療相談に参加しています。新宿中央公園で作った豚汁と甘酒が振舞われます。戸山公園のブルーテントも大分減りましたがぱらぱらと人が集まって来ます。医療相談にも、血圧を測る人、風邪薬をもらいに来る人、病院できちんと診てもらえなかったのでよく診てくれる病院を教えて欲しいなどと数人がやってきます。今年は新宿の医療相談に重症が多く医療班はてんやわんやだったそうです。月に一回ひまわり診療所に来られている本田先生も参加されておおわらわだったそうです。昨年の12月には隅田川の堤防でレントゲン車を持ち込んだ医療相談会があって、私も参加しました。私はもっぱらレントゲン車の中で胸のレントゲンを見る役割でした。約30人位レントゲンを撮ったのですが、半分以上の方に異常な影があり、中には肺がんが疑われる人や、重症の心不全、アスベスト肺の人もおられました。皆さんなかなか医療機関にかかれない中で厳しい路上生活で重症になってしまったのです。山谷や新宿、隅田川の人たちも何年か前には日比谷公園に集まった人たちと同じように首を切られて路頭に迷ったことでしょう。「派遣村」の数年後が山谷や新宿なのです。「派遣切り」になる人たちが年度末にかけて40万人になると言われています。路上に放り出されて困っている人たちのサポートも大事ですが、路上に放り出されないように、簡単に首を切られないようにしないといけません。先月には群馬県の太田市で日系ブラジル人労働者が派遣切りに抗議してデモを行ったと聞きました。当事者が立ち上がれるようにひまわり診療所も何か出来ないかなと考える今日この頃です。

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