ひらの亀戸ひまわり診療所

ひまわり診療所 所長 平野敏夫

 ひまわり診療所は開設当初から労働災害・職業病を診療活動の中心にすえて取り組んできました。アスベストの問題についても、約10年前から大工、左官などの建設関係の労働者のアスベスト関連疾患の治療や労災補償などを取り組んでいます。ちょうど3年前、兵庫県の尼崎市にある石綿管を作っていたクボタという会社で多くの労働者が肺がんや中皮腫(胸膜などに出来る悪性腫瘍でアスベストがほぼ唯一の原因)などの病気で亡くなっていることが判明しました。更に、工場で働いていた労働者だけではなく、工場から飛散したアスベストを吸入した周辺の住民にも被害が出ていることが明らかになり、アスベスト問題が一挙に社会問題になりました。その後被災者を中心に様々な運動が展開され、政府も重い腰を上げ法律の改正や地域被害者救済のための新しい法律も制定されました。この被害者救済法は、多くの被災者を公平かつ隙間なく救済するものではなく欠陥だらけということで、被災者の改正要求に対して今国会で一部改正されました。

 アスベストは耐熱性、耐火性などに非常に優れ広範に使われたため、これまで多くの人達が曝露されています。アスベストによる肺がん、中皮腫はアスベストを吸入して20〜50年後に発症します。静かな時限爆弾と呼ばれる所以です。特に中皮腫は少量の曝露でも発症し、アスベスト作業に従事する夫の作業着を洗濯していた主婦の中皮腫も報告されています。労災保険の認定基準でも、アスベスト作業に1年でも従事した労働者の中皮腫は認定になります。従ってこれからますます被災者が増える可能性が大きいのです。

 2000年以降の40年間に悪性胸膜中皮腫で亡くなる男性が約10万人という推計が出されています。専門家の一致した意見として肺がんは中皮腫の2倍発症していると言われています。すると肺がんは20万人になり合わせて約30万人の男性が40年間でアスベストで亡くなる計算になります。平均して1年間に7500人、これは交通事故による死者を上回る数字です。今後この被災者の治療、補償など大きな問題です。

 一昨年、輸入したアスベストの90%を使用していた建材へのアスベスト使用が禁止されましたが、これまでに使用された1000万トンのアスベストが全国の建物などに存在しています。このアスベストの処理が今後の大きな問題です。とりわけ吹き付けアスベストは老朽化によりぼろぼろになって飛散する恐れがあり除去しなくてはなりません。今後行われるアスベスト除去作業や解体作業でしっかりした対策を執らないと労働者だけではなく周辺住民にも被害が及びます。30~40年後に肺がんや中皮腫などの被害が多発することになります。また、アスベストは燃えないし薬品にも溶けないので、その廃棄処理については今のところ埋め立てるしかなくそのスペースの確保が大変です。

 このような状況でアスベストについての総合的、抜本的な対策が必要ですが、国はアスベスト問題はほぼ解決したと認識しているようで、なかなか重い腰を上げません。診療所としては、被災者や労働組合などと連携して取組みを進めて行きたいと思います。

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