ひらの亀戸ひまわり診療所

高山俊雄

 終末期の医療について、いつまで延命治療を続けるべきかの議論をしてきた救急医学会が、10月15日に評議員会でその指針を決めたという新聞報道がありました。この学会の決定内容では、終末期にある状態像を次のように定めています。「妥当な医療の継続にもかかわらず、死が真近に迫っている状態」と。この一般的な規定とは別に、具体的な状態として3つの状態を示しました。一つは脳死状態にある場合。二つ目が生命の維持が医療装置に依存している場合。三つ目として治療を継続しても数日以内に死亡することが予想される場合。そして、こうした状態にある人にどうすることを認めたのかというと、4つのことをあげています。(1)人工呼吸器や人工心肺の取り外し。(2)人工透析や血液浄化を行なわない。(3)人工呼吸器による呼吸管理方法を変更すること。(4)水分や栄養補給の制限。但し、こうした死を急がせる処置は、あくまで本人や家族の意思の尊重を前提にしているものの、決められない場合には、医療チームが判断し、家族に説明するとされました。この決定に対して、日本尊厳死協会会長井形昭弘理事長(医師)は、「この実施は、あくまで本人がそのような意思表明をしていた場合に限るべきで、不明の場合は、治療を続けるべき」と指摘しています。

 なぜ、こうした学会の動きが出てきたのでしょうか。一つは、医療費削減です。もう一つは脳死・臓器移植の推進ではないかと考えます。脳死からの臓器移植は、法律施行後10年経ちました。この間、移植提供事例は62例。10月18日朝日新聞朝刊には脳死・臓器移植が進まない理由の一つとして、あるコーディネーターの意見を紹介しています「救命の現場で、臓器提供について話をすれば、家族に十分治療してくれないのではという不信感を抱かせるのではないか。そう不安に感じる医療関係者は多い」と。今回の学会の決定について報道は、このような手抜き治療への家族不信を取り除くことを理由の一つにあげています。しかしもう一つ理由があると思うのです。それは刑事告発を避けるという目的です。普通であれば、呼吸器を外すというのは殺人行為です。しかし、学会がこれ以上がんばらなくて良いというルールを決めると、そのルールに則っている限り、警察は殺人行為として医師を刑事告発できない可能性が高いと考えられます。しかし、もともと救命救急医療というのは、大前提として最大限手を尽くすことが求められている医療現場です。どのように手を尽くしたのかも分からない家族に判断を求めても難しいでしょう。すると医師の判断になってしまいます。大きな問題提起を私たちは受けたことになります。

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