ひらの亀戸ひまわり診療所

富永純枝

職場復帰へ 第3回作業関連筋骨格系障害(WMSD)学習会の報告

2007年12月16日 於:4階会議室

 家事や年末の大掃除で肩が痛くなった、仕事がきつくて腰痛になった等、家庭や職場で誰もが多かれ少なかれ経験するような症状を作業関連筋骨格系障害と言います。

このような健康障害を正しく理解し広めようと6月から始まった学習会も3回目を迎え、休業された方がどのようにすればまた仕事ができるようになるのかをお二人の体験談を通して考えました。

 まず、三橋医師からISOの職場改善のアクションチェックリスト(腰痛・肩こり予防マニュアル)の紹介と、どんな作業で症状が出るのか等の説明がありました。

 続いて、30年前外資系通販会社で働いていたSさんの体験談。複写伝票8枚程の厚紙にボールペンで顧客情報を書くという、非常に力のいる仕事を一日中続けたところ、3年後に頸肩腕障害(手指、腕、肩、背中の痛み)を発症され、ついには起き上がれなくなり休業。労基署は業務上と認定したものの会社側は認めず、長い闘いを経て12年後に元の職場に復帰されました。そこに至るまでには、他の患者さん達との協力、組合を通しての会社との交渉、リハビリ勤務を受け入れてくれた地域の労働組合、治療や自宅での自主的リハビリを支えてくれた医療機関のスタッフなど周囲の多くの援助と理解が欠かせなかったとのお話でした。Sさんのあきらめない姿勢が周囲を巻き込み、病気を隠して働くという会社の中で「頸肩腕障害」「労災認定」といった言葉を定着させ、人々の意識を変えていったのだと思います。現在パソコンの普及に伴い作業内容は変化しましたが、未だに手作業の現場は多く、又VDT障害など新たな病名も聞かれますが辛い症状は今も昔も変わりません。ひまわり診療所でも、病名がつくまで頸肩腕障害など聞いたこともなかったという患者さんがおられます。これらの障害の認識を広めていくことも我々の役割だと考えます。

 お二人目は、メッキ工場で働くイラン人のMさん。家内工業のような現場での作業をほぼ一人でこなしていましたが、背の高いMさんは低いメッキ槽に重い金具を手で持って浸けていく作業で、4年後に腰椎椎間板ヘルニアを発症。一年の休業後復職されたものの、再び症状悪化のため休業せざるを得なくなりました。三橋医師によると、20度以上の前傾姿勢が一日の仕事のうち一割以上になると、腰痛になる危険性が5倍以上になるそうです。これまで三橋医師や東京労働安全衛生センターのスタッフも協力し、会社との話し合いや作業台を上げるなどの職場改善が行なわれてきました。現在は自主リハビリや治療を続けながら週に1、2日程度働いておられます。

 最後に、Mさんの健康な職場復帰にはどうしたら良いかを3つのグループに分かれて考えました。新しい職場を見つける、同僚と作業のローテーションを取り入れる、作業そのものの改善、会社とのコミュニケーションを多くするなど様々な意見が出ました。

 お二人の体験を通して、周囲の人々の協力が一人では出来ないことを可能にしてゆくのだと実感しました。参加者からは共感ができたことが良かったという感想が聞かれました。働きたいという意欲が、周りの共感を呼び大きな力になってゆく、そんな広がりを感じた中身の濃い学習会となりました。

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