ひらの亀戸ひまわり診療所

ひまわり診療所 理事長 平野敏夫

 最近、「生活習慣病の予防」や「メタボリックシンドローム予備軍」という言葉がやたらとマスコミで騒がれています。どうも厚生労働省が中心になって宣伝しているようです。生活習慣病は以前からよく知られていますが、「メタボリックシンドローム」という言葉は聞きなれない方もおられるでしょう。これは「内臓脂肪症候群」とも呼ばれ、従来高血圧、高脂血症などがあると心筋梗塞や脳梗塞になりやすいと言われていましたが、更に内臓に蓄積する脂肪に着目して、ウェストサイズ(胴回り)と高脂血症、高血圧、高血糖を組み合わせて診断基準を設定したものです。ウェストサイズについては男性が85センチ以上、女性が90センチ以上ということになっています。先日も中高年の約半数がメタボリックシンドローム予備軍であるという厚生労働省の発表があり、それに対して民主党の議員から「やたらと国民を脅かし、病院に行かせることによって製薬企業を儲けさせようとしているのではないか」と疑問の声が発せられ、国会で問題になりました。

 たしかに、メタボリックシンドロームの日本の基準についてはやたらと厳しすぎるという批判が出されています。ウェストサイズについても、男性の85センチというのは、40〜69歳の日本男性の平均であり他の国の基準よりも大幅に小さいのです。ちなみに女性の平均は79.3センチだそうで、女性の基準が男性よりも大きいというのも変です。血圧も、最高が130以上または最低が85以上となっていますがこれもかなり厳しい基準ですし、そもそも血圧は時々刻々変動しているので一回や二回の測定で決められてはたまりません。コレステロールについても、いわゆる善玉コレステロールであるHDLコレステロールが基準になっていますが、悪玉であるLDLコレステロールでないと意味がないという批判もあります。また、5月に開かれた日本糖尿病学会では英国の学者がメタボリックシンドロームという病気の概念そのものに疑問を呈し、混乱を招くのでこの用語を使うのを止めようと発言したそうです。

 にもかかわらずここにきて国が盛んにキャンペーンをしているのは何故でしょうか? 国がそんなに国民一人ひとりのことを心配しているとは思えません。ひとつには医療費の削減が目的だと言われています。しかし、民主党の議員が言うように、たいしたことがないのに病院に行 ってコレステロールを下げる薬を出されたりして逆に医療費は増えるのではないでしょうか。あるいは、病気をしない「強い」国民を作ろうとしているのでしょうか。最近、長時間労働や職場のストレスで脳卒中や心臓病で倒れる労働者が増え、いわゆる過労死で労災認定された労働者が過去最高になりました。このような過酷な労働にも耐えられる国民になってほしいのでしょうか。もっとうがってみると、戦争できる国になるためには病気がちな国民が多くては困るわけで、健康で頑丈な国民を作ろうとしているのではないかなどと疑ってしまいます。いずれにしても健康はあくまで個人的なものでそれにやたらと国がおせっかいを焼いてくるというのは、どうにも解せません。むしろ長時間労働やサービス残業の規則をもっとやってほしいと思います。

Copyright © 2003 - 2019 Himawari Clinic. All rights reserved.