ひらの亀戸ひまわり診療所

高山俊雄

 先日ある会合で、会議が始まる前、先に集まった若い医療ケースワーカーの方々と話しをしていた。と、一番年若の一人が、「毎週木曜日に売られているモーニングという雑誌読んでますか-とっても面白いですよ」と言った。その中にケースワーカーが出てくる物語があるというのだ。実は私は、その週刊誌を買ったことはないが、いつもコンビ二で立ち読みしている雑誌の一つであった。私は「大体読んでいるけど、その中のオンサイトという道具を使わないで行う岩登りの物語があるけど、あれのファンなんですよ」といった。年若のワーカーは「ブラックジャックによろしくというのがあるけど、かなり暗い感じの絵ですよね」といった。と、別の大学で教鞭をとっている人が「確かに私の連れ合いも絵が汚いから、読む気がしないといってましたけど、あれは、手塚治虫のブラックジャックのことですよね」という。そして「でも、よろしく、って何を伝えて欲しいということなんでしょうか-」と聞いてきた。私も読んではいたが確かに絵で惹かれる物語ではない。私は絵ではなく、このタイトルのつけ方に感動していた。

 この物語がいつごろから連載され始めたか私は知らない。が、そのタイトルくらいは知っていた。しかし、強いメッセージのタイトルであることを意識し始めたのは、テレビドラマとして始まり、それを見るようになってからである。物語は妻夫木聡演ずる研修医が、有名大学病院におけるいろいろな科の研修を通して成長していく姿を描いている。だが、単に成長する姿ではなく、現在の医療現場が抱える現実的な課題がそこには提出される。指導医を含めて、多くが患者の立場に立つというのでなく、目の前の可能な方法を選択するのに対して、その研修医の解決の方向性はいささか非現実的ではある。

 が、その研修医のひたむきさこそ、多くの医師たちが失ってしまったもの、あるいは、失いかけているものなのではないかと思えてならない。何に対するひたむきさか。勿論、患者さんに対する、その命に対するひたむきさである。タイトルは何を訴えようとしているのだろうか。「僕はブラックジャックという天才的な外科医には遠く及ばないけれど、医師としての原点である、患者さんへの強い思いは、一生懸命の努力で、ここまでやっています。このことをブラックジャックさんに伝えて下さい。」私には、このように聞こえてくる。どういうわけか、このタイトルを聞くだけで、私の胸は高鳴り、熱いものが胸底から湧きあがってくるのである。

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