ひらの亀戸ひまわり診療所

ひまわり診療所 理事長 平野敏夫

 6月に兵庫県尼崎市にある大手機械メーカー「クボタ」で働いていた78名の労働者が過去にアスベストによる中皮腫などで亡くなっているという新聞報道が出て、一気にアスベストが大きく社会問題化しました。その後「クボタ」の周辺住民にも中皮腫の患者さんがいることが判明し一気に環境問題にもなりました。7月中はアスベスト問題が新聞やテレビで連日のように報道され、ひまわり診療所の名取先生が頻繁にテレビやラジオに出演され、診療所にも連日新聞とテレビの取材陣が押しかけ、記者会見が4階の診療所の会議室を使って行われるという診療所始まって以来の大騒ぎとなりました。

 アスベスト(石綿)は天然の鉱物で、熱や火に強く、防音効果もあるということで古くから建材やブレーキなど非常に幅広く使われてきました。ところがこのアスベストには発がん性があり、吸入すると肺がんと中皮腫というアスベスト特有のがんに罹ることが1950年代に分かってきました。その後世界各地で全面使用禁止にしようという動きが始まり、ヨーロッパではEUが1999年に全面禁止に踏み切りました。日本はなかなか動きが遅く、昨年になってやっと10月に、一部の代替品がないとされる製品を除いて使用禁止となりました。

 実はアスベストが社会問題になったの今回が初めてではありません。覚えている方もおられると思いますが、1987年に学校の教室などの天井にアスベストが吹き付けられていて、それが老朽化しボロボロ落ちていること事が判明して大騒ぎになりました。そして当時の文部省は、全国の学校に吹き付けアスベストの撤去を支持し工事も行われました。国会でも、アスベストを全面禁止にするという「アスベスト規制法案」が上程されようとしたのですが、与党自民党の反対で廃案になってしまいました。

 ひまわり診療所は1990年に開設されましたが、1997年頃建材を扱う大工や左官などの建設労働者の組合からアスベストによる健康障害の予防と治療について協力の依頼があり、以後組合員のレントゲン写真の読影やアスベストによってアスベスト肺や肺がんになった患者さんの診療を行っています。2年前には名取先生が所長になって「中皮種・じん肺・アスベストセンター」が診療所と同じビルの5階に開設されました。この間、名取先生が様々なメディアでアスベストの有害性、問題の重要性を訴えられたこともあって、7〜8月多くの方がアスベストの健康障害を心配されて受診されました。様々な職種の労働者、家屋のアスベストを心配されている住民の方、中にはアスベスト肺で労災申請された患者さんもおられます。アスベストが非常に広範に使用されていることを改めて認識し、全面禁止と被災者の補償に向けた早急な対策・立法が必要であることを痛感しました。

 アスベストの問題はすでに少なくとも20年前には社会問題化していたにもかかわらず、政府は抜本的な対策を先延ばしにして来ました。今回その重い腰をやっと上げたのは他でもない、「クボタ」で多くの労働者が亡くなったという報道がきっかけです。亡くなった方たちは労災保険の適用になっていますから、当然厚生労働省は知っていたはずです。人が死んで、しかもそのことが明るみに出ない限り対策をとらない、このような日本政府の姿勢は他の環境問題などでも一貫しており憤りを感じます。今回こそは抜本的な対策、立法を作っていただきたいと思います。

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