ひらの亀戸ひまわり診療所

ナヌムの家を訪ねて

 韓国にある「ナヌムの家」に行ってきました。ナヌムの家は日本軍による「慰安婦被害女性」の生活を支える、福祉施設です。「ナヌム」とは、朝鮮語で「分かち合う」という意味の言葉だそうです。

 国、京畿道、そして韓日両国の寄付によって設立され、仏教団体が運営しているとのこと。ソウルから電車、バス、タクシーを乗り継ぎ、広州の山間にその建物はありました。敷地の中には、彼女たちの生活の場の他に歴史館があり、ここでは、「従軍慰安婦」を「軍隊性奴隷」と位置づけ、人権をテーマに日本の戦争犯罪を告発し、被害女性の名誉回復を意図した、歴史学習のための博物館となっています。

 そこには彼女たちの痛ましい経験を表現した絵も展示されています。肉体的、精神的に忌まわしいトラウマに向き合いながら、描いたのだろうかと思われます。現在ナヌムの家は、10名のハルモニ(おばあさん)が入居していて、5名のスタッフが支えています。告白し名乗りを上げたハルモニは、韓国内で50名いるとのこと。敷地の中に療養院を建て、もっと多くのハルモニを迎えたい、そして将来的にはDV被害者たちも迎えられるようにしたいと、日本人スタッフの矢島さんは語ってくれました。又、中国に置き去りにされ、帰国できないでいるハルモニに対する支援も訴えていました。

 夕食を終えたハルモニが話を聞かせてくれました。「良い働き口があると、16歳の時に騙されて連れていかれた。気がついたときはもう遅かった。泣いて泣いて……。一緒に汽車に乗せられた同年代の女性も、同じ手口で連れてこられた。」と、話の途中ため息を何度もつきながら辛い話しをしてくれました。「今は血も涙も一滴も出ない……。」と最後につぶやいておられました。自分の人生の無念さを語られる姿は、歴史の証人としての役割を果たそうとされているのだなと、思いました。ハルモニ達は、『女性のためのアジア平和国民基金』という組織を作り、日本政府主導でお金を民間から集め、これを「慰安婦被害女性」の方々に配布するというやりかたは、法的責任を回避するために作られたもので、決して正しい問題可決の方法ではない、と反対していました。そして、92年から毎週水曜日、日本大使館前で日本政府の正式な謝罪を求めて、集会を行っているとのこと。

 ハルモニの当時の状況に思いを馳せると、それは恐ろしい、そして屈辱に満ちた地獄のような追体験になる。彼女達は、従軍したのではないし、日本軍を慰安したかったわけでもない。それは強制的に前線に送られ、性奴隷を強要されたという事実だったのだ。中国、フィリピン、インドネシア、と被害にあった女性は30万人といわれる。ナヌムの家の一番若いハルモニは77歳であるという。日本の歴史教科書から彼女達のことを抹殺しようという動きが見られる中、このまま風化にまかせてはいけないと思う。12月には、日本でハルモニ達の証言集会が予定されている。

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