ひらの亀戸ひまわり診療所
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2018年春号 第102号

働き方改革よりも、休み方改革

所長 毛利一平

 ボクは診察室で患者さんに、できるだけ「お仕事は(何でしょうか)?」と聞くよう心がけています。患者さんの訴えが仕事と関係がありそうなときはもちろんのこと、そうでないときでもです。「風邪」でも聞きます。少々体調が悪くても仕事に行こうとする方が少なくないので、せめて職場の環境が風邪ひきさんにやさしい(?)かどうかを確認して、薬の種類や量を考えるためです。

 いろいろと聞いていると、少しずつですが今の職場の様子が見えてくるように思います。病気が早く治るように、治療の効果がよくでるように、あるいは悪くならないようにと、「休んでくださいね」、「無理をしてはいけませんよ」などと声をかけるのですが、「休むわけにはいかなくて」、「無理してでも...」と返されることの方が多いです。

 働き方改革と叫ばれてはいますが、日本人の働き方、長時間・過重労働はなかなか変わりません。

そもそも一日8時間働いたら、8時間は睡眠をとって、8時間は自分のために好きなように使おうといわれるようになったのは今から130年も前のことでした(1886年)。生産のための技術がうんと発展して、生産性が上がっているはずなのに、100年以上前のスローガンがいまだに実現できていないとはどういうことなんでしょうか。

「いやいや、日本人は働き者で勤勉だから、時間なんて気にせず働くもんさ!」などと主張される方もいらっしゃるかもしれませんが、それはおかしな話。日本人だけが長時間労働に耐えられるわけはないのです。

 1937年、日中戦争が始まったその年に、当時の中島飛行機製作所(ゼロ戦のエンジンとか作ってました)付属病院長であった浅野均一は次のように言っています。

 「11時間以上連日労働せしむることは欠勤または疾病の発生等より全般的能率の著しき低下と各人につきては単位時間の能率の意識的低下もあることを基礎として、大体9時間ないし10時間程度の労働最も能率的なるべしとの結論を得・・・」

 つまり、毎日のように11時間以上働いたりしていたら、能率は落ちるわ病気になるわ、ろくなことはないからそんなことはやめた方が良い・・・といっているわけです。聞いてる?・・・アベさん。

 浅野先生は面白い人で、能率が極端に落ちる夜勤をやめてしまったり、工員の昼間の体操を、「疲れるからやめろ。昼寝しろ」といってやめさせたりと、あくまで科学的根拠に基づいて働き方を指導しています。きっと軍部からあれこれ言われたのではないかと思うのですが、戦時中でも駄目なものはダメときっぱり言えた浅野先生を、ボクも見習いたいと思うのです。

 さて、国会で働き方改革が議論されています。 この原稿を書いている今、裁量労働制の拡大については法案をいったん取り下げたようです。それはよし。でもそもそも裁量労働制の拡大なんて話が出てきたあたり、もっと都合よく働かせたいという経営側の思惑が透けて見えるようで、いただけません。

 でも、もっと問題なのは睡眠やプライベートのことを横において、何をするにもまず仕事を中心に置いてしまう私たちの考え方そのものなのかもしれません。ある企業でストレスチェックを行ったところ、残業時間が短くなったためかイライラの度合いが小さくなった一方で、活気もなくなったという結果が出ていました。「仕事が減って気が抜けた」ということなのかもしれませんが、「一日8時間の仕事では物足りない」なんて悲しすぎます。

 今本当に必要なのは、「働き方改革」よりも「休み方改革」なのかもしれません。皆さんも一度、仕事を取っ払った自分に何が残るか、振り返ってみませんか。

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